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名古屋高等裁判所 平成10年(ネ)619号 判決 1999年1月28日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  事実

事実については、次のとおり付加訂正するほか、原判決「事実及び理由」の「第二 主張」のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決六頁九行目「権利の濫用」とあるのを「信義則、権利濫用」と改め、七頁三行目から四行目にかけて「陥るのであり、原告がこうした事情に一切配慮することなく、」とあるのを「陥り、あるいは倒産し、会員のプレー権の存続と会員権の価値の保護ができなくなる状況にあるのに対し、被控訴人は、もともと入会時には預託金の返還を請求することなど念頭になく、右預託金の額を上回る金額で会員権を譲渡することを予定していたにもかかわらず、」と改め、同頁五行目「主張するのは、」の次に「信義則に反し」を加える。

二  原判決九頁六行目末尾に次のとおり加える。

「また、控訴人が預託金返還債務の発生により支払不能あるいは債務超過に陥るのであれば、会社更生手続等の再建型倒産手続によって再建をはかるべきであり、そのような適正かつ公正な手続をとることなく、漫然と延長決議により返還債務の履行を回避しようとするのは著しく正義に反する。」

第三  証拠

本件記録中の原審及び当審における証拠に関する目録の記載を引用する。

第四  当裁判所の判断

一  当裁判所も、被控訴人の請求は、原判決が認容した限度において理由があると判断する。その理由は、次のとおり付加訂正するほか、原判決「事実及び理由」の「第三 判断」のとおりであるから、これを引用する。当審における証拠調の結果も右の認定判断を左右するに足りない。

1  原判決一〇頁一〇行目から一二頁三行目までを次のとおり改める。

「ところで、控訴人は、本件会則第一二条の「やむを得ない事由」の意味について、何ら限定をせずに、本件クラブの運営が困難となる事情をいう旨の主張をするが、同条項の解釈は、文言の体裁、文言解釈のみならず、契約当事者双方の合理的意思及び事情を探究してなされるべきものであり、一方当事者である控訴人側の意思や事情のみを重視してなされるべきものではないのであって、右の控訴人の主張は採用できない。そして、預託金返還請求権は会員の契約上の基本的な権利であり、預託契約を締結した各会員は、通常、据置期間満了後は直ちに預託金の返還を受け得る権利を有すると期待していたことは右期間中無利子で少なからざる金額が凍結されていたことからしても容易に理解される。そうすれば、右の「やむを得ない事由」は、そのような期待に反し、会員の契約上の基本的な権利に関し、確定的に約束された据置期間を一方的に延長させる結果に結びつく例外的な事由であるから、その意味は、同条前段の天災、地変に準じる予見し難い重大な事由をいうと解するのが当事者双方の合理的意思に合致するというべきである。これを前提に本件を検討すると、控訴人主張の、いわゆるバブル経済崩壊による預託金返還請求の増加、ひいてはそれによる控訴人の財務内容悪化の懸念という事情は、天災、地変に準じる予見し難い重大な事情ということはできないのであって、「やむを得ない事由」に該当しない。

これに対し、控訴人は、バブル経済の崩壊は予想外であると主張する。しかし、バブル経済の崩壊が控訴人の期待と予想に反した経済状態であるとしても、一般に資本主義経済国家においては好、不況等の経済変動が常に存し、また、バブル経済はいずれ必ず崩壊するものというべきであって、本件においても、本件契約時点(昭和六二年五月二日)において、据置期間の期限である一〇年後までの間に、日本の経済状態が悪化する可能性があることやバブル経済が崩壊することを予見し難かったと認めることはできないから、右主張は結論を左右しない。

したがって、右延長決議は本件会則第一二条の要件を満たさないものであって、被控訴人を拘束するものではなく、抗弁1の主張は採用できない。」

2  原判決一二頁一〇行目「前記の経済変動は」から同頁一一行目「これらの事情」までを「本件では、被控訴人が純粋に投機のみを目的とし、本件預託契約締結の際、預託金の返還請求をする意思がなかったことは認定できず、その他、被控訴人の権利行使が違法不当な目的に基づくとか、権利行使により求める利益が僅かである等の事情は認められないこと」と改め、一三頁二行目「求めることが」の次に「信義則に反し」を加える。

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 笹本淳子 裁判官 丹羽日出夫 戸田久)

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